Hatena::Grouphakase

y4su0の日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2009-06-16

電力需要のピークシフト

22:53 | 電力需要のピークシフト - y4su0の日記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 電力需要のピークシフト - y4su0の日記 電力需要のピークシフト - y4su0の日記 のブックマークコメント

id:tsugo-tsugoさんのはてなハイクのエントリとか、id:BUNTENさんのはてなハイクのエントリと関連して、ちょこっとメモ。

一般に電力需要は昼間にピークになり、夜間に最低になります。そこで最低ラインの発電を原子力にまかせて、変動分は火力でまかなうのが、日本の電力会社における*1基本的な考え方。ただし、効率その他の点で変動はできるだけ少ない方のが理想なので、なんとかしてピーク需要を夜間電力でまかなうための工夫がいろいろされています。

例えば、電力を使って水を下から上に汲み上げて、ピークのときに上から下に流して水力発電を行う揚水発電というのがあります。要するに電力を位置エネルギーに変換して貯めていることになるわけです。他にもフライホイールを使うとか、いろいろアイデアはあります。エネルギーを100%回収できないので省エネルギーという観点からは不利になりますが、変動を抑えられるというメリットがあります。

また、需要家側の運用を工夫することによって昼間の空調や給湯を夜間電力で行う、という考え方もあって、建築環境工学の分野でいろいろ研究されています。具体的な商品例としては、電力会社がさかんに売り出している「エコキュート」、「エコアイス」あたりがあります。夜間に氷を一生懸命作っておいて、昼間の冷房にその氷を使えば、昼間の電力消費を抑えることができるというのが基本的な考え方です。

ただし、今の電力会社の販売戦略は「深夜の電力料金を下げることで経済的なメリットを提供する」というスタイルなので、昼間の電力消費のピークが抑えられているというのは、一般ユーザーレベルではあまり意識されていないみたいです。

さらに言えば、コンクリートの比熱を考えると建物の躯体 (壁、柱、梁) を夜間電力で冷やしておくだけで昼間の冷房負荷を抑えることができます。ピークが抑えられれば、契約電力が小さくできるし、空調機器も小さいのが選べるし、で経済的なメリットもたっぷり。これは「躯体蓄熱」という考え方で、10年ぐらい前からゼネコンがやたらと研究していました。今は本格的な実用化に向けてゼネコン各社が自社ビルに設置している、という段階*2。その延長線上で蓄熱のための特殊な素材を使うことによって昼間の空調を動かさない、とか、時間スケールをもっとでかくして冬に蓄熱用素材を冷やして夏の冷房に使う*3、とかいった研究も見たことがあります。

この躯体蓄熱方式の制御のポイントは、翌日の冷房負荷をいかに正確に予想するか、というところ。予想が大きすぎると冷やしすぎでエネルギーが無駄になるし、小さすぎると昼間の快適性が犠牲になったりします。

あと、研究レベルでは「大容量キャパシタやらその他いろいろ使って、電力需要をフラットにする」みたいな話もある*4んだけど、多分実現するのは結構先の話になりそうです。

建築環境工学以外の分野では、数年前にIBMデスクトップPC代替として使用されているノートPCを対象に、バッテリを使ったピークシフトというのをやたらと宣伝してたことがあります。これも夜間にバッテリを充電しておいて、昼間の電力需要がピークになる時間帯にバッテリでノートPCを動かす、という手法で、電力制御のソフトをいじる形で実現していました。最近はあまり聞かなくなりましたが。

というわけで、ピークシフトっていろいろやってるよ、という話でした。

*1:少なくとも、関西電力九州電力はそんな感じ

*2清水建設の2008年7月23日付リリース鹿島の2007年7月25日付リリース

*3:昔の日本の「氷室」ってこの発想だよな

*4:例えば、2005年度国土交通省 住宅・建築関連先導技術開発助成事業「新エネルギー技術と蓄電を組み合わせた住宅用エネルギーシステムの開発 (PDF)」

トラックバック - http://hakase.g.hatena.ne.jp/y4su0/20090616

2009-05-04

よくわかる (かもしれない) 建築環境工学

19:52 | よくわかる (かもしれない) 建築環境工学 - y4su0の日記 を含むブックマーク はてなブックマーク - よくわかる (かもしれない) 建築環境工学 - y4su0の日記 よくわかる (かもしれない) 建築環境工学 - y4su0の日記 のブックマークコメント

ということで、よくわかる (かもしれない) 建築環境工学

前にも書いたように、建築環境工学の対象は大まかには、熱環境、空気環境、音環境、光環境ぐらいに分かれており、かなりバラエティに富んでいます。ということで、細かく書くときりがないのでかなりざっくりとした書き方で。

ひょっとしたらスコーンとどっか抜けてしまってるかもしれません。もし抜けてたらその分野の研究者の方ごめんなさい。

熱環境

熱環境の対象は読んで字の如しで、建築の内外における熱の移動と人体の温熱感。

さらに「熱の移動」については、機械的な手段 (要するに空調設備) を用いるのか、用いないのか、といったあたりで分かれます。前者の立場をさらに進めると、エネルギーやコストなど与えられた制約条件の下で要求される熱環境を実現するための空調設備設計 (または運用) の最適化という話になります。また、後者の立場をさらに進めると、壁体内の非定常熱伝導や建物開口部における放射熱伝達による室温変動のシミュレーションみたいな話になります。エネルギーやコストの効率を考えると当然両者を併用しないといけないので、これらの立場は対立するものではありません。

人体の温熱感については、被験者を使った生理実験*1やったり、人体内外の熱収支をモデル化したシミュレーションを行ったり、という研究をやっています。かなり生理学チックですが、このあたりからISO7730「中等度温熱環境-PMVとPPD指標の算出と快適温熱環境の仕様」などの成果も出ています。

空気環境

空気環境の対象は空気の「質」です。具体的には、室内空気の水蒸気、二酸化炭素、その他有毒ガス (窒素酸化物、一酸化炭素など)、粉塵類などの濃度のコントロールが問題になります。で、流体力学的に室内空気の流動をきちんと考えたり、ということになります。

また、特に水蒸気については、熱の移動も同時に考慮しないと、いろんなところで結露して壁材料にダメージを与えたり、部屋の隅っこでカビが生えたり、ということになります。さらに地域によっては、壁体内部で水分が凍結して深刻な問題になったりします。ということで、熱環境分野と空気環境分野の研究は比較的重なっていることが多いです。

音環境

音環境の対象は、室内音響とか騒音対策あたり。

室内音響の花形はなんといっても音楽ホールの音響設計なんですが、その影では各種建築材料の音響的な特性とか、「(心理的に) よい音楽ホール」の物理的な条件の解明とか、地道な研究が続いています。

騒音分野は、道路騒音や航空機騒音など外部からの騒音に対する実態把握、予測、対策などに関する研究です。最近だと、GISとかアクティブ・ノイズ・コントロールとか、建築以外の技術を使ってどうのこうの、みたいな研究がちょこちょこ出ています。

他にも、床への衝撃や各種機械からの振動が床や壁体を伝わる、固体騒音というのも建築における音環境の問題になるんですが、この辺の分野はひょっとしたら id:tsugo-tsugo さんのエリアと重なるかもしれません。

傍目で見ていると、電気音響など他分野との交流が結構盛んな感じがします。

光環境

光環境の対象は照明と色彩あたり。

照明関連は、各種作業のための光環境の設計手法の検討とか、光環境に対する心理評価とか、昼光(=直射日光+天空光)の照明への活用などをやります。心理評価関連の研究は限りなく認知心理学に近くなって、どこが建築学やねん、という状態になることもあったりします。ここ数年は光によるメラトニン抑制がヒトの概日リズムに与える影響というのが結構ホットな話題で、某社が製品化に向けて色々研究しているようです。

色彩関連だと、各種色彩環境に対する心理評価などの研究があるんですが、景観評価など一部のテーマでは、同じ建築学の中の計画系と重なります。しかし、日本建築学会大会のタイムテーブル見てると、計画系の都市景観セッションと環境系の色彩環境のセッションが同時進行になってる (=環境系の研究者が計画系のセッションを聴くことができない) ことが多くて困り者。

その他

給排水&水環境、各種電子機器の動作への影響などを考慮した電磁環境、温熱・音・光環境の組み合わせ環境を扱う複合環境あたりも建築環境工学の守備範囲内ですが、研究者の数はそれほど多くありません。

また、個別の建物だけではなく、都市レベルでの環境を問題にすることがあります。熱環境分野におけるヒートアイランド問題やその対策なんかはその典型。

最後に

以上が建築環境工学でやってる内容ですが、当然、建築系専攻があるすべての大学ですべてのテーマを研究している*2というわけではなく、それぞれの大学によって、「照明関連の研究はやってるけど、色彩関連はまったくやっていない」みたいなことがあります。

また、各分野と研究室の対応については、大学の規模などにより、「熱・空気環境、音環境、光環境がそれぞれ別の研究室」、「熱・空気環境、音・光環境の2つの研究室」、「建築環境工学全体で一つの研究室」などのパターンがあります。

大学における研究室選択などの際にはそのあたりの情報も抑えておきましょう。

*1:医師じゃないので採血はできない。ということで、体温、脈拍、血圧などが実験データになる

*2:学部や大学院の講義では一通りやるけどね

2009-05-03

「よくわかる (かもしれない) 建築環境工学」も書きます

22:44 | 「よくわかる (かもしれない) 建築環境工学」も書きます - y4su0の日記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 「よくわかる (かもしれない) 建築環境工学」も書きます - y4su0の日記 「よくわかる (かもしれない) 建築環境工学」も書きます - y4su0の日記 のブックマークコメント

なんかスターが4つもついてるので、これは何か書かなきゃだめだろう。

ということで、近いうちに「よくわかる (かもしれない) 建築環境工学」というのを書きます。GW中に書ければうれしいなあ、ぐらいの感じで。環境工学関連なら資料もあるので、「よくわかる (かもしれない) 建築学」で建築施工が抜けてた、みたいなことはないと思います。

あと、一瞬現れた「よくわかる (かもしれない) 建築環境工学 その1」は書きかけてたのを間違えて公開しただけなので、RSSリーダーで見つけたりした人は忘れてください。

トラックバック - http://hakase.g.hatena.ne.jp/y4su0/20090503

2009-05-01

「よくわかる (かもしれない) 建築学」への補足

16:20 | 「よくわかる (かもしれない) 建築学」への補足 - y4su0の日記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 「よくわかる (かもしれない) 建築学」への補足 - y4su0の日記 「よくわかる (かもしれない) 建築学」への補足 - y4su0の日記 のブックマークコメント

勢いに任せて30分ぐらいでちょろっと書いた「よくわかる (かもしれない) 建築学」が、なんか妙にはてブ人気集めてしまいました

b:id:keiloveyasudaさんのはてブコメントにもありましたが、「よくわかる (かもしれない) 建築学」の話って、建築やってる人間にとっては「いろは」の話なんで、「この程度の軽いネタでなんでこんなに反応があるねん」というのが正直な気持ちです。

シリーズ化して、「よくわかる (かもしれない) 建築環境工学」とか、「よくわかる (かもしれない) 建築光環境」とか書いたら、書くたびにブックマークが減っていく、という現象がみられるのかなあ。

トラックバック - http://hakase.g.hatena.ne.jp/y4su0/20090501

2009-04-30

よくわかる (かもしれない) 建築学 (追記あり)

23:08 | よくわかる (かもしれない) 建築学 (追記あり) - y4su0の日記 を含むブックマーク はてなブックマーク - よくわかる (かもしれない) 建築学 (追記あり) - y4su0の日記 よくわかる (かもしれない) 建築学 (追記あり) - y4su0の日記 のブックマークコメント

hakaseグループの趣旨からいって、なんか自分の専門に関することを書いた方がいいんだろうな、ということで、もともとの僕の専門だった建築学をざくっと紹介。

建築学はおおまかに次の3つの分野に分かれています。

  • 計画系 ---- 室配置などの平面計画、都市計画意匠建築史などに関する研究。
  • 構造系 ---- 鉄筋コンクリート構造などの各種構造や材料関連の研究。
  • 環境系 ---- 熱環境、空気環境、音環境、光環境などに関する研究。

日本建築学会が出版する学術雑誌である日本建築学論文集もこのジャンル分けに従って「日本建築学会計画系論文集」、「日本建築学会構造系論文集」、「日本建築学会環境系論文集」の3つに分かれています。また、大学の建築系専攻での研究もこの3分類がベースになっています。

計画系は建築学科における花形分野で、安藤忠雄*1隈研吾東大建築学科の教授やってたり、高松伸が京大の教授やってたり、と「スター教授」がいることも多いです。僕が学生だった時は、計画系の研究室は4回生研究室配属や大学院入試で人気が集中することが多く、「狭き門」になってました。多分、今もそうだと思います。

ちなみに海外で architecture というとこの分野を指し、engineering とは別物と考えられてます。また、architecture は多くの場合独立した学部で教えられています。

構造系は、純粋に構造計算をやる「構造力学」、各種材料で構成される構造物の構造計算について研究する「鉄骨構造」、「鉄筋コンクリート構造」、材料の力学的特性などについて研究する「建築材料」などの分野に細分されます。また、地震などに対抗するための耐震構造などの研究もこの分野。僕が学生時代に講義を受けた某教授によると、「機械とちがって動かないから、建築の構造力学は簡単」ということらしいです。

海外だと、建築構造力学は civil engineering (土木工学) の一部になってることが多いです。

環境系は、建物内外の熱、空気、音、照明、色彩などが研究テーマ。取り扱うテーマは、各種環境に対する人体の生理反応とか、省エネ住宅のための空調機器の最適制御問題とか、室内照明に対する心理評価とか、かなりバラエティに富んでいます。逆に言うと、あまり建築っぽくない分野でもあります。僕も照明や色彩に対する心理評価に関する研究をやってたんですが、「建築の先生に研究の話をしてもあまり受けないけど、認知心理の先生には受ける」、「研究のための参考文献を探すために、建築学科ではなく文学部の図書室に入り浸る」などの現象が起こっていました。

あと面白いのが、火災関連の研究も環境系に入るということ*2。火災の熱によって鉄筋コンクリートの柱が水蒸気爆発を起こす、みたいな現象の解析をやってたりします。昔、なぜ火災関連が環境系なんだろう、と思って知ってる先生に聞いてみたところ、「温度差の桁が2つぐらい違うけど、現象としては、空調時の壁体内の伝熱と同じだから」という話でした。

海外だと、building science と呼ばれていて、建築学部の一部という扱いになってることが多いようです。

さて。日本の大学の建築系学科の場合、建築士試験の受験資格との絡みもあって、計画系、構造系、環境系のそれぞれについて、バランスよく履修することが求められます。「デザインやりたいから」という理由で建築学科に入ったとしても、基本的な構造計算ぐらいはやらないといけないということです。

また、研究レベルでも、例えばコンクリート内部の熱水分移動*3に関する研究で構造系と環境系の両方の知識が必要になる、みたいなことが起こります。

というわけで、院生時代からあまり建築っぽくない研究を続けた挙句、建築とは関係のない職場に転職してしまった僕のような人間でも、一応図面は描けるんだぜ、というお話でした。

(以下、追記)

はてなブックマークのコメントより。

iroiroattena 学問 施工に関して含まれて無いのが面白い。全て机上論。まあ"学"の話だから当然か。施工管理不足で品質を落とさないようにくれぐれもよろしくね。 2009/05/01

施工のことを書いてませんでしたが、施工関連の研究は構造系になります。品質管理や新工法の開発などを扱います。大学の建築学科の出番はほとんどなくて、ゼネコンの研究所ががんばってる分野でもあります。

ということで、納得していただけたでしょうか? >id:iroiroattena

*1:2003年に定年

*2:やってる大学はそれほど多くないみたいだけど

*3酸性雨によるコンクリートの中性化で問題になる